耳あか
耳あかはどうしてできるの?
耳あかは、外から入ったホコリだけでなく、外耳道の皮膚にある皮脂腺(ひしせん)などから出てくる分泌物と、古くなった表皮が混ざったものです。外耳道の皮膚は、約一ヶ月をかけて鼓膜付近から外側に移動していき、最後にはがれおちます。そのため、外耳道の奥には普通耳あかはありません。耳あかには、乾いた耳あかと湿った耳あかがありますが、これは遺伝で決まり、湿っているからといって病気ではありません。完全につまってしまうと、耳栓をしているのと同じように聞こえにくくなるばかりでなく、外耳炎をひき起こし痛みが出てくることもあります。また、中には真珠腫という特殊な中耳炎が奥に隠れていることもあります。
このように治療します。
完全につまってしまっている場合は、耳垢水(じこうすい)という耳あかを柔らかくする薬を入れて、耳あかを取り除きます。耳あかが硬く固まってしまっている場合は、耳あかを触るだけでも痛みを感じることがありますが、このようにすることで痛みもなく取り除けます。
外耳道を完全にふさいでいる耳あか
急性中耳炎
こんな症状があれば要注意!
・カゼをひいて耳が痛くなった。
・耳だれが出てきた。
・機嫌が悪くなって、高熱が出てくる。
この病気の原因は?
鼻の奥にあるバイ菌が、耳管という耳と鼻をつなぐ管を通って、鼓膜の奥の中耳という場所で炎症を起こし、膿(うみ)がたまる状態です。大人でもありますが、特に小さいお子さんによく見られます。(写真のように、膿がたまり、鼓膜が赤く腫れて、非常に痛いものです。)
このように治療します。
抗生物質を飲んだり、点耳薬という耳に直接入れるお薬で治療します。最近は、お薬の効きにくいバイ菌がとても増えてきているので、バイ菌の検査を同時に行って、バイ菌の種類によっては、お薬を変更する場合もあります。また、痛みや発熱などの症状が強く、鼓膜の赤みや、腫れが強いときは、最初から鼓膜を切って、膿を出すこともあります。痛みが無くなったからといって、お薬を止めないようにしましょう。バイ菌がかえって強くなり、中耳炎がひどくなったり、治るのに時間がかかることもあります。鼻と耳がつながっているために、鼻みずが出ていると、中耳炎も治りにくいので、鼻みずが治まるまでしっかりと治療しましょう。
正常の鼓膜
急性中耳炎の鼓膜
滲出性中耳炎
こんな症状があれば要注意!
大人では、
・耳がつまって、山に登ったときのようになる。
・自分の声が響く。
小さいお子さんでは、
・呼びかけても反応しない。
・テレビの音が大きい。
この病気の原因は?
鼓膜の奥にある中耳に滲出液という分泌物が写真のようにたまった状態です。特に子供に多く、ちくのう症やアレルギー性鼻炎、鼻の奥にあるアデノイドが大きい時もなることがあります。小さいお子さんでは、痛みが無いので、気づかれにくく、呼びかけても振り返らなかったり、テレビの音が大きいなどで、気づかれることもあります。放置すると、一部は真珠腫、癒着性中耳炎という更に治りにくい中耳炎になることがあります。
このように治療します。
中耳にたまった滲出液は、耳管(じかん)という管を通って、鼻に排出されます。鼻みずが多いと、耳管をふさいでしまうので、この貯留液が鼻に抜けていけず、そのために滲出性中耳炎も治りにくくなります。早く治すために、鼻の治療も必要になりますので、鼻の治療も一緒に受けましょう。お薬や、鼻の治療でも治りにくい場合は、鼓膜を切ったり、鼓膜に右写真のようにチューブを入れて、常に中耳に空気が入るように処置することもあります。
滲出性中耳炎の鼓膜
チューブを入れて、常に中耳に空気が入るように処置
慢性中耳炎
こんな症状があります。
・だんだん耳の聞こえが悪くなって、耳だれがある。
・カゼをひいたりすると、耳だれが出てくる。
慢性中耳炎は、こんな病気です。
大きく分けると、鼓膜に穴があいて耳だれを繰り返す慢性化膿性中耳炎と、骨が溶けていく真珠腫という病気があります。放置しておくと、難聴や耳だれの他に、めまい、顔面神経麻痺、髄膜炎などを起こすこともあります。特に真珠腫は、痛みも無いのに進行していることも多く、手術で治療する必要がありますので、このような症状のある方は、早めに耳鼻科を受診しましょう。
どんな検査、治療をするの?
慢性中耳炎では、お薬の効きにくいバイ菌が出てくることもよくあります。耳だれが出ているときは、耳だれを吸い取ったり、バイ菌の検査をしてバイ菌にあった抗生物質の飲み薬や点耳薬を使って根気よく、定期的に治療し、耳だれをとめて鼓膜の奥まで乾かすようにします。聴力検査で難聴の程度を把握し、特に真珠腫の場合は周囲の骨をどんどん溶かして広がっていることもありますので、そのような場合はCTでどこまで進んでいるかを調べます。その結果により、年齢や難聴の程度、病気の広がり具合で治療の方針を決めていきます。
慢性化膿性中耳炎
真珠腫
外耳炎
外耳炎ってどんな病気?
外耳道(耳の穴の入口から鼓膜まで)の皮膚の炎症です。多くの場合は、耳を強くかいたり、耳掃除をしたり、泳いだりした後に、傷ついた皮膚からバイ菌が入って、腫れてきたり、赤くなったりします。耳の痛みの他に、耳だれやかゆみ、耳のつまった感じ、聞こえにくい、などの症状が一般的です。炎症がひどくなると、痛みで眠れなかったり、口をあけても痛みを感じたりすることもあります。また、バイ菌だけではなく、外耳道真菌症(しんきんしょう)といって、カビが繁殖し、強いかゆみを感じることもあります。
このように治療します。
まず、バイ菌の種類を調べるために、細菌検査を行います。治療のために、抗生物質や痛み止めを飲んだり、点耳薬という耳に直接入れるお薬で治療します。最近は、お薬の効きにくいバイ菌がとても増えてきているので、バイ菌の種類によっては、お薬を変更して治療することもあります。硬いもので耳かきや耳そうじをすると、外耳道を傷つけてしまい、外耳炎の原因になります。習慣的に耳かきをされる方は、できるだけ触る回数を減らし、また触るのであれば綿棒などの柔らかいもので、やさしく触るほうがいいでしょう。
外耳炎
カビによる外耳炎
難聴
こんな症状があれば要注意!
・最近、耳鳴りが出てきて聞こえが悪くなってきた。
・早口の言葉が聞き取りにくくなってきた。
・家族から、聞こえが悪くなったと言われる。
・突然、耳のつまる感じがして、聞こえにくくなった。
聞こえにくいのは、どうして?
聞こえにくい場合には、いろいろな原因があります。私たちが音を聞くときには、まず外から来た音が鼓膜を振動させ、鼓膜の振動が中耳の耳小骨(じしょうこつ)を伝わって、内耳の蝸牛(かぎゅう)に伝わります。蝸牛の中で、この振動が電気信号に変わって、聴神経(ちょうしんけい)を伝わって、脳で内容を理解する、というのが正常な聞こえの仕組みです。外耳、中耳に問題がある難聴を「伝音難聴(でんおんなんちょう)」といい、手術で良くなる可能性があります。蝸牛に問題があると、音が聞こえない、音がひずんで聞こえる、などの症状が出ます。内耳より奥の部分に問題があると、音は聞こえるが言葉が聞き取れない、という症状が出ます。この内耳と内耳より奥に問題がある難聴を「感音難聴(かんおんなんちょう)」といいます。感音難聴は、原則として手術では治療できません。実際には、この伝音難聴と感音難聴が混ざっていることも多く、検査でどの部分に問題があるかを調べて治療を進めます。
どんな検査、治療をするの?
「伝音難聴」か「感音難聴」かを調べるために、聴力検査、チンパノメトリー検査、耳小骨筋反射検査という耳の検査をします。場合によっては、レントゲンで聴神経に問題が無いかを調べます。これらの検査で、慢性中耳炎などの伝音難聴であれば手術などでの治療を、突発性難聴、老人性難聴などの感音難聴であれば、必要に応じてお薬や補聴器で治療を進めていきます。しかし、伝音難聴と感音難聴が混ざっていることも多く、年齢などを考えて患者さんにあった最も良い方法を考えていきます。
耳鳴り
耳鳴りって、どんな病気?
耳鳴りは、実際には音がしていないのに、何かが聞こえる状態を言います。蝉の鳴くような「ジー」や、金属音の「キーン」という音のように表現されることが多く、もちろんそれ以外の音もあります。一般には聞こえが悪くなるにともなって、耳鳴りが出てくることが多いものの、そうでない方もあり、原因はあまりわかっていません。耳鳴りの多くは、自分自身にしか聞こえない「自覚的耳鳴」であることが多く、ストレスや睡眠不足などで更に大きくなることもあります。耳鳴りがうるさく、眠れない、家事や仕事が手につかない、など日常生活にも困っておられる方もおられます。
どんな検査、治療をするの?
耳鳴りは、聴力と関係のあることが多く、聴力検査や鼓膜の状態を調べるチンパノメトリー検査、聴神経を調べるためにレントゲン撮影をすることもあります。しばしば「脳腫瘍は無いでしょうか?」と質問されますが、結論から言えば、耳鳴りと脳腫瘍の因果関係は不明です。耳鳴りだからといって、最初から脳腫瘍を調べることは一般にはありません。また、耳鳴りは原因がはっきりしていないために、治療法も確立したものはありませんが、ビタミン剤や安定剤などのお薬での治療が一般的で、その他に漢方薬や、注射をしたり、TRT療法という耳鳴りに順応していく治療など多く試みられていますが、残念ながら100%効果のあるものはありません。
めまい
めまいってなに?
「めまい」という言葉の意味は、実際は動いて無いのに「自分が周囲に対して動く感じ」、または「周囲が自分に対して動く感じ」を持つことを言います。よくあるのは、「周囲がグルグル回る」、「船に乗っているみたいにフワフワする」という症状です。いずれもめまいの典型的な症状ですが、原因になる病気は20種類以上あり、大きく分けると耳が原因のものと脳が原因のものに分けられます。耳が原因のものでは、三半規管(さんはんきかん)というバランスを感じるところが調子をくずして起こることが多く、疲れやストレス、睡眠不足が引き金になることもしばしばあります。
どんな検査、治療をするの?
めまいの原因になる病気を調べるために、眼振(がんしん)というめまいに特有な目の動きをみたり、聴力検査やレントゲン検査、血液検査等を行います。耳が原因のめまいでは、めまいをおさえるお薬を飲み、無理せず安静にしていると、だんだんめまいは軽くなっていきます。それに対して意識がなくなったり、ろれつが回らない、手足が動きにくい、などの症状が有る場合は、耳以外の原因も考えられます。そのような症状があるときは、まず最初に内科や脳外科を受診し、脳が原因でおこっているめまいでないか、相談してみることをお勧めします。
メニエール病
こんな症状があれば要注意!
・めまいがあり、耳鳴りや難聴、耳のつまった感じがある。
・数時間続くようなめまいを繰り返している。
メニエール病って、どんな病気?
グルグルと目がまわるめまいを繰り返す病気です。耳の奥の内耳(ないじ)に、リンパ液がたまりすぎて起こる病気で、めまいの他に耳鳴りや難聴、耳のつまった感じを一緒に起こすこともあります。めまいは多くの場合、グルグル回りますが、なかには船に乗っているようなフワフワした浮動感であることもあります。また、めまいにともなって、吐き気を感じることもよくあります。一回のめまいは、数時間続くことが多く、中には半日以上続くこともあります。めまいの発作は、数日から数ヶ月の間隔で繰り返すことが多く、病状が進行するにしたがって、難聴も進行することがあります。なお、数十秒から数分程度のめまいであれば、普通はメニエール病ではありません。
どんな検査、治療をするの?
めまいに関しては、眼振(がんしん)検査といって、めまいに特徴的な眼の動きが無いかを調べます。難聴、耳鳴りに関しては、聴力検査などを行います。典型的な場合は最初から診断できますが、典型的でない場合は経過をみないと診断できません。治療は、内耳のリンパ液がたまりすぎないように、利尿剤(尿を出やすくする薬)や、症状の程度によってはステロイドホルモンを使うこともあります。進行した場合は、手術で治療することもあります。繰り返すことが多いので、聞こえが悪く感じたり、耳のつまった感じのあるときは、早めに耳鼻科を受診し聴力の検査を受けましょう。なお、内科の先生にしばしば「メニエールですね」と言われたという患者さんもおられますが、実際には聴力などを調べてみないと診断できませんので、そのような場合は耳鼻科を受診することをお勧めします。
良性発作性頭位めまい症
こんな症状があれば要注意!
・頭を動かすと数十秒程度のめまいがある。
・じっとしているとめまいも治まってくるが、動くと再びめまいを繰り返す。
良性発作性頭位めまい症ってどんな病気?
めまいを起こす病気の中で最もよくある病気で、内耳にある加速度を感じ取る耳石(じせき)という器官の病気です。何らかの原因で耳石がかけて、隣にある三半規管の中に入り、頭を動かすことで、その耳石のかけらが三半規管の中を動いてめまいを引き起こします。そのために朝起きるときや、寝返りを打ったときなど、頭を動かすことがきっかけになって、数秒から数十秒間のグルグル回るめまいを感じます。じっとしていると止まりますが、動くとまた、グルグル回るめまいを繰り返します。吐き気はありますが、意識が無くなったりはしません。
どんな検査、治療をするの?
めまいの原因になる他の病気を除外するために、聴力検査やレントゲン検査、血液検査等を行いますが、診断は眼振(がんしん)検査という、この病気に特徴的な眼の動きを調べて診断をつけます。この病気はグルグル目が回るので、非常に怖く感じますが、一般には数日から数週間で自然に治ります。めまいが強い間は、お薬を用いたり、頭を動かすことで三半規管の中の耳石を元の場所に戻す治療法もありますが、全ての患者さんに効果があるわけではありません。吐き気が強い間は、安静にしていた方が良い場合もありますが、この病気の場合は積極的に体を動かした方が、治りが早いとも言われています。
低音障害型難聴
こんな症状があれば要注意!
・山に登ったような耳のつまった感じがあるが、そんなに聞こえは悪くない。
・音の響くような感じがある。
・耳のつまった感じや、響く感じが良くなったり、悪くなったりを繰り返している。
低音障害型難聴って、どんな病気?
低い音が急に聞こえにくくなる病気です。比較的、女性に多い病気で、睡眠不足やストレスがきっかけで発症することもあります。聞こえが悪いことより、耳鳴りや、耳のつまった感じ、音の響く感じや割れた感じの症状の方が強いこともあります。良くなったり悪くなったりを繰り返す場合もあり、その場合は、めまいを起こすメニエール病になることもあります。
どんな検査、治療をするの?
聴力検査などで難聴の程度を調べます。原因は、蝸牛内のリンパ液が何らかの理由で多くなりすぎたためと考えられています。そのため治療には、尿としてリンパ液を出しやすくするように利尿剤などを使用します。この利尿剤は、味があまり良くなく、また量が多いのが欠点ですが、比較的良く効きます。効果が無い場合には、ステロイドホルモンを使うこともあります。しばしば繰り返すこともありますので、十分睡眠をとり、疲労やストレスを避けることをお勧めします。
突発性難聴
こんな症状があれば要注意!
・朝起きたときや、何かをしているときに、急に聞こえが悪くなる。
・聞こえにくいだけでなく、耳のつまる感じや耳鳴り、めまいのあることもある。
突発性難聴って、どんな病気?
内耳という音を感じ取る部分の調子が悪くなって起こる、原因不明の病気です。文字通り、急に(突発的に)聞こえが悪くなります。全く聞こえなくなる人もいれば、めまいや耳鳴り、耳のつまる感じ、音の響くような感じのある方もおられます。50歳〜60歳代に比較的多く、年間3000〜5000人に1人程度の発症率と考えられています。発症前に、疲労感やストレスを感じている方も多く見られます。
どんな検査、治療をするの?
聴力検査などで難聴の程度を調べます。治療には、ステロイドホルモンを中心に、ビタミン剤、抗凝固剤(こうぎょうこざい)などを使用します。同時に疲れやストレスを避けるように心身を安静にすることも大事なことですので、入院で治療することもあります。いずれにしても早めに治療を開始した方が治る率は高くなりやすいのですが、残念ながら治療しても全く良くならない方もおられます。発症してから2週間以上経っていたり、難聴の程度が強かったり、めまいが一緒にある場合、高齢の場合などは、治りが悪い要因と考えられています。突発性難聴は、一度きりの病気で、もし難聴を繰り返すようであれば、メニエール病や聴神経腫瘍などの他の病気の可能性もあります。また、ステロイドホルモンは最初に多く使用して、だんだん少なくしていく必要があります。聴力が良くなったからといって、急に薬を中止したりすると体に負担がかかることもあります。お医者さんの指示通りに通院して、しっかりと治療しましょう。